1979年のフランクフルトショーで登場したW126は、エネルギー問題という世界中が抱えていた悩みへの、MBなりの回答であったと言えるでしょう。ボディスタイルはさらに大柄になりましたが、流線を帯びたcd値の低下(0.36)したものとなり、各部に樹脂パーツを組み合わせる事で軽量化と安全性の向上を同時に成し遂げていました。またV8エンジンそのものも素材をアルミに変える事で大幅に軽量化。高効率、低燃費を実現する新時代のSクラスとして126は誕生したのです。またこのW126から採用された新しいV8エンジンは、それ以前のものと比べて格段に静寂性に優れており、加えてエンジンルームとコクピットの間に隔壁を設けることで、車内への防音率が飛躍的にアップ。これは後のMBのスタンダードな設計となっていきました。そのほか外観上ではブルーノ・サッコが考案した「サッコ・プレート」と呼ばれるボディサイドのプロテクトパネルが目新しい点でした。
ラインナップは直6-2.8Lキャブレター仕様の280S、同インジェクター仕様の280SE、V8-3.8Lの380SE/SEL、V8-5.0Lの500SE/SELのほか、3Lターボディーゼルを搭載した300SDも用意されました。V8エンジンのラインナップは一見すると先代(W116)の350、450の拡大版と解釈されがちですが、実際には縮小版であり、450の後継に380が、6.9の後継に500が当たります。これはオイルショックを背景とした、排気量を縮小しつつ稼働効率を上げることで走行性能を稼ぐ、という時代の要求があったからにほかなりません。その証拠に450SEL-6.9に比べて300Kg以上も軽量化された500SELの場合、最高速度225Km/h、0-100Km/h加速7.7秒という性能を示し、これは450SEL-6.9の示した数値とほぼ同じものでした。また500SELには450SEL-6.9のハイドロニューマティック・サスペンションを簡略化した、セルフレべリング機構つきのショックもリアサスペンションに採用されています。
1982年にはクーペモデルのSECが登場します。W111シャーシのクーペモデルが生産を終了して以来、このクラスのクーペモデルではSLベースのクーペであるSLC(W107)がラインナップされていましたが、W126以降再びセダンベースのSクラスクーペが登場することになったのです。このSECはプラットフォームこそセダンと共通で、シャーシナンバーも同じ126となっていましたが、ホイールベースは大幅に短縮され、ボディもより低く、スマートな全く新しいデザインのものが与えられました。発売当初のラインナップは380SEC、500SECの2車種のみで、ベーシックグレードは用意されませんでした。
1985年にW126シリーズはマイナーチェンジを行い、ラインナップが大幅に変更されます。ベーシックグレードである直6モデルは、SOHCの2.6Lエンジンを搭載した260SEと3.0Lエンジンの300SEという2本立てとなり、DOHC2.8Lエンジンは消滅しました。V8モデルでは380SE/SELが420SE/SELへと進化。500SE/SELはそのまま残されましたが、最上級グレードとして560SE/SELが登場しました。クーペモデルもセダンと同じく420SEC、500SEC、560SECというラインナップになっています。そのほかの変更ではホイールが14インチから新意匠の15インチホイールになり、バンパー、サッコプレートなどのデザインも若干変更されました。
80年代半ばになってこれらのモデルの排気量が拡大された理由の一つとして、世界中を巻き込んだオイルショックが一段落していたことが挙げられます。日本仕様についても1983年までは280、380とディーゼルのみのラインナップでしたが、84年モデルからようやく500SEL/SECが登場し、85年以降は560も正規輸入されるようになりました。
1989年モデルでは4.2Lと5.6LのV8エンジンが改良され、大幅にパワーアップ。排気管に触媒を持たない本国仕様の560では、実に300ps/5000r.p.m.という大パワーを獲得しています。90年モデルからは従来オプション設定だった運転席エアバッグを標準装備化し、新たにASRがオプション設定されました。また同年、主に北米市場向けに350SDというディーゼルモデルも登場しますが、1991年に後継機種であるW140が発表されたことで、W126は1992年モデルを最後に生産を終了しました。
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