W140は1980年代を代表する最高傑作と評された先代W126の後継機種として、1991年のジュネーブショーにおいて発表されました。先に登場していたR129(SL)の流れを引き継ぐ、徹底したフラッシュサーフェイス化がはかられたボディは、W126よりもさらに大柄なものとなり、ロングバージョンのSELに至っては実に5.2mというリムジン並みの全長になっていました。サスペンションはフロントにサブフレームが復活し、W126と同じくWウィッシュボーンを装着。リアはW201以降に登場したほかのモデルにならってマルチリンクが採用され、これでMBの乗用モデルは全て同じサスペンション形式になりました。ハイテク技術の投入も顕著で、ABS、ASR、ESPといった車両制御システムを統合的にコントロールする高速データバス(CAN)を装備。エアバッグは運転席・助手席両方に標準装備され、安全性への配慮も伺えます。また外気導入時の不純物を取り除くマイクロ・フィルターや、防音性、遮熱性に優れた二重サイドガラスの採用で、室内の快適性も向上しました。
W140の登場に当たって搭載エンジンは一新されています。W126後期の搭載エンジンが全てSOHCだったのに対し、W140のそれは全てDOHCとなっており、新開発のV12-6Lエンジンを筆頭に、V8-5L、V8-4.2L、直6-3.2Lというラインナップ。モデル名はそれぞれ600SE、500SE、400SE、300SEとされ、ロングバージョンのSELは600、500、400に用意されました。W126で縮小傾向にあった排気量が再び拡大された理由としては、エネルギー問題が一段落したこと、エンジンの高効率化に伴う燃費の向上、排出ガス浄化装置(触媒)の能力向上、車体の大型化に伴う馬力向上の必要性などが挙げられます。しかし最大排気量を誇る6リッターエンジン搭載車も発売当初こそ410psという最高出力でしたが、ヨーロッパでの環境問題に対する意識が高まってきた事もあり、後に395psへと下方修正されています。他のモデルも同様に5〜15psのディチューンが行われていますが、この修正された数値は日本やアメリカといった80年代以前から排出ガス基準の厳しい国の仕様と等しいものであり、90年代半ば以降のモデルについては、本国仕様と日本仕様の最高出力に差はありません。
1993年には先代と同様にクーペモデルのSECが登場します。こちらも先代に比べてより大柄なボディとなり、その値段設定が表す通りMBのトップレンジに位置するパーソナルカーに相応しいものでした。ラインナップは500SEC、600SECの2機種。小排気量エンジンが存在しないのはパーソナルカーとしての使用を前提としている為で、つまりこの大柄な車体を充分に加速させ、ストレスを感じずにドライビングプレジャーを味わうためには、大排気量エンジンの搭載が必要不可欠だからです。
1993年秋にはMBのラインナップ整理に伴い、W140も全てのモデルの名称が変更になります。このW140の名称変更はやや複雑で、例えば300SE、500SEL、600SECといったモデル名はそれぞれS320、S500L、S600Cとなりますが、ボディのエンブレムには「L」や「C」といったボディスタイルを表す記号はなく、クーペでもロングでも5LエンジンならばS500と表記されるようになりました。この名称変更と同時にエクステリアにも若干の変更が加えられ、新型の8穴アルミホイールやホワイトウインカーレンズが標準装備に。またS320には新たにロングバージョン(S320L)が加わり、最小排気量モデルとしてS280も新登場しました。
そのほかのマイナーチェンジとしては、1994年にバンパーやサイドパネルなどエクステリアを中心にフェイスリフトが行われ、翌95年にはS600CとS600L、2台のハイエンド機種にITGS機能を備えたナビゲーションシステムが標準装備され、クライメートコントロールも新しいものに変更されました。1996には全モデルでサイドエアバッグが標準装備され、アルミホイールも新しいデザインになっています。
クーペモデルは1996年、Sクラス全車のマイナーチェンジと前後して、新たにCLという名称に変更になりました。この変更に伴ってW140のクーペはSクラスのカテゴリーから隔離され、新たにCLというカテゴリーを形成することになります。CLとはクーペ・ラグジュアリーを意味するとされており、97年に登場したW208(CLK)とは同じライン上に設定されていると考えられます。ラインナップはSクラス時代同様、CL500、CL600の2機種。名称変更と同時に、新しい5穴18インチ・アルミホイールを標準装備としています。
90年代MBのフラッグシップモデルであったW140ですが、大型化しすぎたボディサイズに対しては批判的な声も多く、セダンは1999年モデル、クーペは2000年モデルを最後に、後継機種であるW220へとその座を譲ることになりました。1998年からはファイナルエディションとして、色々なオプションを標準装備したモデルが各国ディーラーで設定されています。
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