三ツ星倶楽部 其之一 W124 300E 1/4 最善か無か
構成/田村十七男・芥川貴之志 撮影/山田裕之
(編集部 注:取材は9月中に行われたため季節感の無い写真になっておりますがご容赦下さいませ……)
170 え〜いきなり呼ばれましたが、とにかく始めましょう。この企画は毎回1モデルをお題にして、アレコレ言い合うってことでいいんだよね。
AKU そうです、そうです。色んな視点から見て、魅力を再発見できればいいな、と。
170 しかし、クルマに興味こそあれ、メルセデスベンツのことは詳しくないオレでよかったの?
AKU 全〜然問題ないですよ。むしろ素人的な意見が欲しいんですから。
170 あ、素人代表なのね。ふ~ん、トーシローなんだ……。
AKU そこ、スネるポイントですか? いやまぁ、楽しくおしゃべりしていきましょうよ。よろしくお願いしますよ。
170 お願いされたっ!! ではまず、この高尚な雑談の第1回目に、アクちゃんはなぜW124を選んだのか、そこから聞いていこうか?
AKU さかのぼること今から11年前にこのMB-Netを始めたわけですが、開設当時、ここに集まってくれる人たちの間で人気があったのがW124でした。
170 その頃って、W124は現役だっけ?
AKU W124の発売期間は1985年から1993年なんですよ。すでに後継のW210に代替わりして5年が過ぎていた。つまり、すでに中古車だったわけです。後期モデルはまだ高値で取引されていたけれど、10年落ちの中期モデルなら100万円代で買えるようになっていたのが、人気の秘密その1。
170 腐ってもベンツ、って感じで誰もが買ったのかな?
AKU そんな一般論を口にしちゃうのが素人…。あ、いや失言です。
170 ……続けて。
AKU 確かに中古車価格が手頃になったのは、人気を高めた大きな理由ですね。それに加えMB-Netでは、安い補修部品の買い方や修理方法の情報交換をして、自分でメルセデスベンツをイジることを奨励したというか、何かやってみようと提案したんですね。その最適な素材が、当時はW124でした。
170 何かあったらヤナセ、じゃない人たちがいたのね。実際にイジれるの、W124は?
AKU けっこうイケますよ。機構的にシンプルなところもあるし。でね、W124に人気が集まった最大の理由は、これがもっともメルセデスベンツらしい最後のモデルという評判があったからなんです。ファンの間でそれを決定づけたのは、後継のW210のつくり。ぶっちゃけ、コストダウンがあからさまだった。
170 ファンがもっとも嫌うパターンだ。世間に迎合しているように見えちゃうんだよね。売れる曲書くんだ、アンタも、って感じ。
AKU そのたとえはよくわかりませんけど、今から思えばメルセデスベンツも大きな転換期を迎えていたってことなんでしょう。W124が世界中で高い評価を受け、190Eみたいなコンパクトモデルも発売し、一部の高額所得者だけでなく中流階級にもマーケットが広がったとき、新しいミディアムクラスは売れるものにしなくちゃいけなかった。そういうことだと思うんです。
170 1990年代になって、価値観が大きく変わったよね。ベンツと言えばヤバい人の乗り物だと思ってたから、見かけた瞬間に道を譲ったら、実は普通のお父さんが運転してた、みたいなことが起きた時代だったもん。
AKU だからこそ、昔ながらの丁寧さでつくられたW124が最後のメルセデスベンツに見えたんです。なんて言うとW210のファンには怒られちゃうけど、経緯としてはそうだった。
170 明らかに顔が違うよね。ごついセルロイドのメガネみたいな角目と、流し眼みたいに涼しげな丸目だからさ。個人的にはW210の雰囲気は好きよ。すごく新しく見えたし、あのデザインがそれ以降のクルマに与えた影響は大きかった。でも、「最善か無か」を謳ってきたベンツがコストダウンに走るのは、ファンにしてみたらさびしかったんだろうなあ。
AKU 「Das Besten oder Nicht」。
170 ダッ? べッ? 何それ? どこ語?
AKU ドイツ語で「最善か無か」。
170 それ、MB-Netに集まる人は、みんな空で言えるの?
AKU さあ……?いや、実は僕も今日のために覚えたんですけどね。いずれにしても当時、たとえばオフ会的なイベントをやると、7〜8割がW124でしたからね。それくらい人気があったんです。
170 なるほどな。