三ツ星倶楽部 其之二 W123 280E 1/3 第三国のうらぶれた街角によく似合う!?
構成/田村十七男・芥川貴之志 撮影/山田裕之
三ツ星倶楽部 其之二
170 さぁ始まりました、三ツ星倶楽部の第2回目は、W123です。前回がW124だったから、ひとつ型がさかのぼったのね。
AKU 今回のモデルは、W123のセダンでは最終となる1985年型の280Eです。走行距離は約11万5000キロ。現在のオーナーが購入する以前は、世田谷のご老人が所有していたワンオーナー・カーだったらしく、四半世紀落ちにしては走行距離も少ないし、程度はいいですよね。
170 いささかヤレてオフホワイトっぽくなった外装がシブい。この時代のベンツって、こういう白のイメージが強いなあ。
AKU 実は僕も以前W123に乗ってたことがあるんですよ。
170 モデルは?セダン?
AKU コレと同じ280Eです。’84年式のシルバー。あれもわりとキレイだったけど、ここままでじゃなかったですね。黒以外のダッシュボードはクラックが入りやすいんですが、このクルマはそれも無いし。ずっと屋内保管だったんだろうな。
170 内装は本当にキレイだよね。ウッドパネルもピカピカ。
AKU この時代に日本に輸入されたW123は、ホワイトとシルバーが圧倒的に多くて、次にネイビーといった感じだと思いますが、実際にはグリーンやオレンジ、マスタードイエローなんていう華やかなボディカラーもあったんですよね。’70年代のサイケというか、ポップな流行を取り入れていました。その辺の色目は珍重されるから、中古車市場に出るとけっこうな高値で取引されていますよ。個人的には、手頃な中古車を手に入れて、好きな色に全塗装しちゃってもいいんじゃないかなあと思いますけど。日本人はフル・オリジナルにこだわる傾向があるけれど、それほど貴重な車種じゃないですからね。遊んじゃってもいいんじゃないかな。
170 そうなの? 貴重じゃないんだ。
AKU 相当な台数がつくられましたからね。1976-1985年の生産台数は、えーっと、W123全車種で2,696,914台、そのうちセダンだけでも2,375,440台です。同時期のBMW5シリーズであるE28は、1981-1988年で722,328台ですから、その約3倍。高級車でありながら270万台というのは、かなり多いと思います。
170 確かにその生産台数は多いね。
AKU ヨーロッパとかではタクシー車両になってましたからね。ポリスも使っていたし、公用車関係でも広く採用されていた。設計自体からして頑丈につくってありますから、耐久性や安全性が求められる現場で高い信頼を得ていたんだと思います。
170 事前に調べて驚いたんだけど、1980年前後のセールス面では、このW123と競合していたのがVWのゴルフだったんだってね。販売台数で拮抗していたらしい。だからW123は、当時のベンツのエントリーモデルなんだと説明する文献もあった。
AKU 確かに1982年にW201/190クラスが発表されるまでは、W123が一番安価なモデルでしたからね。でもエントリーモデルっていうのはどうかな?車格が小さいのと、タクシー等の需要に応えるため、装備を簡素化した安いグレードを選べたというのはありますが、これをステップに次はSクラスっていうのは、日本人的な発想じゃないですかね。”いつかはクラウン”的な。W123の基本設計はかなりしっかりしていますし、手を抜いたりコストダウンを目指した跡はまったく見られないですよ。
170 基本設計はしっかりしてるよね。今でも普通に乗れちゃうのに驚いた。ボディもしっかりしてて、25年も経っているとは思えないもんなぁ。
AKU 設計がしっかりしているだけじゃなく、適当にごまかして乗れちゃう鷹揚さを持ち合わせていたのも特徴ですね。この280Eは、Kジェトロっていうボッシュの機械式インジェクションを採用しているんですが、フューエルポンプやポンプリレーが痛んでくると、燃圧が落ちてアイドリングがギクシャクするんです。でもそれをアイドリングアジャストスクリューでちょいと高めにすれば、なんとか安定させられる。この280Eも実はアイドリングが高めなんです。ほら、Dレンジに入れても800回転くらいでしょ。本来は600回転くらいだから、おそらく少し上げるように調整しているはずです。そんなふうにごまかしが利くってのは、この時代のクルマのいいところですよね。
170 動かなくなったら蹴っちゃえ、みたいな。それでセルが回ったりするとエンジンかかるなんてのはクールかもね。今時のクルマじゃ確実にあり得ないだろうけど。
AKU シンプルなんですよね。エンジンルームもすっきりしているし。
170 ボンネットがほぼ直角まで開口するんだね。
AKU 整備性を考えているんです。W124以降もそうですが、あそこまで開くから、ボンネットを外さずにエンジンを降ろすことも可能です。ドイツの工場とかでは、リビルド済みエンジンが用意してあって、いつでもすぐに交換出来るようになっていたらしいですね。そうやって50万キロとか、100万キロとか走るんでしょう。タクシーに使われたのも納得です。ダッシュボードなんかも簡単にバラせますしね。そういうところ、本当によくできているんです、W123は。
170 だから語られるんだね、ベンツは。細部までも話題が尽きない。もういやらしいくらいに。
AKU とは言えW123もさすがに古くなってきたから、ヨーロッパでもあまり見かけなくなってきましたね。多く生き残ってそうなのは中東あたりの第三国とかかな。香港やタイなんかもまだ残ってそう。うらぶれた街角に停ってそうな感じ。
170 うらぶれてないといけないの?W123のオーナーに怒られない?(笑)
AKU いや、そういうわけじゃないけど(笑)質実剛健で、ボディがボコボコになってても、黙々と距離を刻んでるようなイメージがあるんですよね。ピカピカの新車みたいなのもいいけど、W123の場合は逆にヤレた感じも風情があっていいなぁ、と。