業界のめげない伝説
その人は、少し特殊な外車ブローカーでした。 普通のブローカーは自分では店舗を持たず、取引のある車屋の在庫車を一般顧客に売り、売れた時点でその車屋から業販価格で買い取って顧客に引き渡します。 その人は、店舗は持ってないという点ではブローカーですが、仕入れは主に海外から新車を持ってきて、売り先は街の外車屋が中心でした。 バブル期の彼は凄かったです。 とにかく高級外車なら何でも飛ぶように売れたのですから、自分でも一体いくら儲かっているのか把握できていないほどでした。 毎晩歓楽街に繰出してまさに豪遊三昧の日々。 儲かってはいたのでしょうが、手元にお金はそんなには残していなかったようです。 バブル末期、本国で2千万のテスタロッサが日本では5千万、5千万のF40は、1億5千万のプライスが付けられていました。 ちょうどその頃私はその人と初めて出会ったのですが、彼は定価2千万のテスタロッサ、並行輸入なら1千5百万くらいで買えるのかと思っていた全くの世間知らずの私のことを笑いもせずに対応してくれたことを今でもよく覚えています。 「いつまでもこんな状況が続くはずはないですよ。あとひとつ大きな仕事をしたらしばらく休もうと考えています。その頃にはきっとテスタも普通の値段になってるはずですから、貴方の分くらいはお手伝いしますよ」 そう話してくれた彼の読みは結果的に正しかったのですが、資金繰りに手間取ったのが命取りになりました。 その後しばらくしてF40を10台本国から新古車として仕入れてきました。おそらく1台1億に近い値段で持ってきたのではないでしょうか。 しかし、運悪く届いた頃にはバブル崩壊。 もう5千万円でもなかなか売れません。 しかも、資金はちょっとヤバイ系の金融筋からの融資らしく、ほどなくして行方不明になっていましたのですが、それからすぐ地方中枢都市の駅前で偶然彼と出会いました。 ホームレスでした。 私のことは覚えていてくれたようで、少しだけ話して別れました。 大変そうでしたが、めげているようには見えませんでした。 先だって、そんな彼の噂をまた耳にしました。 どこから資金を集めたのかは分かりませんが、随分前に投資会社立ち上げて、上手く運用していたということです。 ところが、去年のリーマンショック後まもなくまた行方不明になっているそうです。 きっとまたどこかの街でホームレスやってるのかな。 でも、また何かやるんだろうな。 めげないから、あの人。 by OZW |