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呼ばれるという感覚


Y子とは商社の同期入社でした。
他の連中はみんな、日本経済を背負って立つのは自分たちだ、というくらいの気概をもって入社してきているのに、彼女は外交官だった父上のコネで、何か間違ったところに来てしまったみたいと自分でも言っていた通り、ちょっと浮いた存在でした。
私も日本経済なんて全く興味はなく、いずれ起業するときのための社会勉強くらいにしか考えていなかったものですから、そんな彼女とは妙に馬が合いました。

ある日、
「ねぇ、OZW君、どこかに呼ばれるという感覚ってわかる?」
「はぁ??」
「気にもしていないのにやたらとその場所のインフォメーションが目についたり目に飛び込んでくるような。」
「場所って?」
「フィレンツェ」
「それって潜在意識の中で気にしてるから目に付くとか、そうじゃなければ美術館の展示とかで急にポスターがあちこちに貼られたとかじゃないの?」
「夢のない奴!!   でもウフィツィ美術館は行ってみたいって言ってたよね。一緒に行ってみない?」
「学生じゃないんだから行けるわけねぇーじゃん」

それから数ヵ月後彼女は退社して、さっさと一人で渡伊してしまいました。

半年ほどして彼女からサンドロ・ボッティチェルリの「ヴィーナス誕生」の絵葉書が届きました。
捨てるに捨てられずというわけでもないのですが、実はその絵葉書、未だに手元にあったります。



どうしても美術の勉強がしたくてフィレンツェまで来てしまいました。
とーっても地味なのですが、weavingです。
日本でいうところの鶴の機織り。
布の勉強をしたくなり、それはやはりここでしか出来ませんでしたから。

ウフィッツィで教科書や美術書に出てきた絵画を生で見られる感動は他には何にも替えられません。
最近は、一緒にルームメイトのイギリス人の子と観に行くのですが、彼女にキリスト教でなければ宗教画の意味なんてわからないでしょう!と言われ、何時間も場面の説明を聞きながら朝から夜まで観ていることもあります。
わたくしにとってフィレンツェは第二の故郷となるでしょう。




実際そのまま彼女はそこに留まり、イタリア人と結婚と離婚を2度繰り返し、しかしデザインスタジオをいくつも抱える立派な経営者として現地に根付いていきました。

そんな彼女から、今度は3度目の結婚式の招待状が届きました。

場所はもちろんフィレンツェ、日時は、再来週!!??

学生だって行けやしないでしょ。

まあでも、今度こそ偕老洞穴を貫けよ、と祝電を送っておきました。


by OZW


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