10年後の車社会
中国政府は、今後10年電気自動車開発を国家戦略として重点的にバックアップしていく方針を確認したそうです。 ガソリン車には100年の歴史があり、エンジンなど重要なパーツの素材や構造はもちろん製造技術などもすべて特許で抑えられてしまっている上、技術そのものも10年以上の開きがあって、これから追いかけてもそう簡単には追いつけないと判断したからということです。 電気自動車ならまだこれからの分野ですし、日米欧の自動車メーカーにとってこれまで一世紀近く開発に莫大な金と時間を掛けてきたという歴史から考えてハイブリッドくらいならともかく完全に電気自動車に生産を切り替えることは、ある意味「自己否定」になってしまいかねないこともあって、この点ではむしろ新興企業に有利なのかもしれません。 去年9月に米著名投資家ウォーレン・バフェット氏率いる米投資会社バークシャー・ハザウェイ傘下の米エネルギー会社ミッドアメリカン・エナジー・ホールディングスが、中国の自動車・電池メーカーのBYDの株式10%を約2億3100万ドルで取得したのは、こうした事情を見越してのことだと思います。 とはいえ、自動車というのは電池とモーターだけ開発できればOKというほど単純なものではなく、走行・旋回・停止のすべての動作と安全性や快適性なども含めたまさに総合技術力が必要とされる産業です。 たとえば、Lexus LS600 ハイブリッドなどは、実に複雑な制御をしていて、使用されているECUは、100個以上、それらを動かすためのソフトウェアのソースは実に1000万行以上にもなります。 1千万行のプログラムといわれてもピンとこないかも知れませんが、たとえば表示形式変えられて、画像も貼れるし、メールも送れて、書込みはログイン形式でみたいな、MB-Netで使っている多機能掲示板でも、プログラムソースはたかだか2千行程度です。 別の機会で書ければと思いますが、この掲示板はセキュリティがちょっと弱いのと管理者側の使い勝手もいまひとつだったので、社内IT部門で500行ほど追加修正したのですが、このたった500行でも延べ20時間くらいはかかっています。 コンピューター技術の発展に連れてプログラムは巨大化傾向にあるとはいえ、一昔前なら大手金融機関の基幹システムでさえ数百万行でした。 これを考えると1000万行というのがいかに複雑な制御をしているのかお分かりいただけるではないでしょうか。 その上、後からパッチ配布すればいいや、ということで平気でバグだらけの製品を販売してしまう今のPCとか携帯業界のやり方は、車では許されません。 このとてつもなく高度で完璧を求められる制御システムと、その全てのデバイスを、いくらコピー上手な中国人でも数年でものに出来るとは私には思えません。 つまり、いくら新分野の電気自動車といっても、一気に世界一のテクノロジーを中国が近い将来持つとは非常に考えにくいんですよね。 もっとも、世界一のテクノロジーを持ったメーカーの車が一番売れるというわけではありません。 時計なんかだと、たとえばシチズンの光発電でチタン製の電波時計なんかはロレックスなんかより機能的にもテクノロジー的にもよほど上なわけです。 また、値段だけでいえば中国製のものなら1000円でそこそこ使えるものが手に入りますよね。 この中で一番売れていないのが最高のテクノロジーを持ったメーカーのものだったりするわけです。 しかも、時計と違って車の場合、世界中には安くて実用的な車を喉から手が出るほど欲しがっているひとたちがまだ数十億人いるわけです。 もし、BYDの車が百万円切るような価格で売り出されることにでもなれば、10年後には中国製電気自動車が完全に世界を席巻しているという状況もかなり現実味を帯びてきます。 by OZW |