三ツ星倶楽部 其之四 W109 300SEL 6.3 1/3 巨大ロボットが動き出す!
構成/田村十七男・芥川貴之志 撮影/山田裕之
AKU 前回、ちょっと気になってたことがあるんですよ。
170 なになに?
AKU W204やったでしょ?それで何となくトナオさんの口が重かったから、やっぱり新しいモデルじゃ語りようがないのかなあと。
170 人の引き出しを見透かしたような言い草だなあ。そんなにオレは古い人間なの?
AKU でも、今回の6.3はクルマを見た瞬間からニヤついてたじゃないですか。
170 バレた? ってか、見透かしてる?
AKU そんなわけで第4回目は、1968年から1972年という世代の節目に登場した、300SEL6.3の登場です。シャシー型式ではW109ですね。
170 デカッ! っていうかデカすぎる。誰もが外車にひれ伏していた時代の、特にサイズ感から来る威厳の匂いがプンプンするね。まさに黒船級!
AKU じゃ、まずはディメンションの話からしましょうか。ご存知のようにSELのLはロングの意味で、その全長は実に5m。全幅が1.810mで全高が1.410m。ホイールベースは2.865mで、ロングではないモデルより115㎜長かったんです。
170 6.3ってのは排気量でしょ?
AKU ええ、M100という6300cc、250馬力のエンジンを載せていたんですね。90度バンクのV8で、その基本設計はつい最近までの5リッター系エンジンに生かされていました。このM100エンジンは、元々Sクラスの上に存在していた600、W100という超高級車に積まれていたものなんです。W100はケタ違いにデカいですよ。ショートモデルをリムジーネ、ロングモデルをプルマンと呼んでいましたが、ショートですら全長5.54m、ロングに至っては6.24mですからね。
170 誰が乗るの?
AKU とんでもない金持ちか、公人なら国家元首クラスでしょうね。’70年代初頭に一大事件として報じられた、ネズミ講団体のボスも600に乗っていたそうです。正義か悪かを問わず、頂点に立つ者が乗るクルマだったと言えるんじゃないでしょうか。ローマ法王が謁見パレードで乗る、後部座席のみオープンになるランドーレットという仕様もありました。その巨体ゆえに3トンを超えるW100のために開発されたエンジンを、一回り小さいSクラスに詰め込んじゃったのが、この300SEL6.3なんです。
170 なんで詰め込んじゃったの?
AKU W124の500Eなんかもそうですけれど、新たなニーズを生み出せる期待なんだと思います。メルセデスって真面目なイメージが強いけど、過激というかヤンチャな試みはけっこうやってるんですよね。ただシャシーのポテンシャルが高いし、ちゃんと仕上げてくるから、出来たクルマはそれほどヤンチャにはならないんだけど。
170 デカいエンジンを格下のクルマに詰め込むのって、相当に強引な手法だけど、クルマ好きはそういうところに惹かれるよね。
AKU 補足情報をもうひとつ。W109というのはエアサス仕様なんですよ。通常のバネサスはW108と呼びます。エクステリアはほとんど変わりませんけどね。あと、W109は積んでるエンジンを問わず、車名の頭に300が付きました。だから例えば同じ2.8リッターのSOHCエンジンを搭載していても、W108は280SELでW109は300SELという具合。ちなみにEはインジェクターの意味で……
170 というようなありがたい講釈を聞く前に運転しちゃったんだけどね、セルを回す時点から圧倒されたよ。火が入った瞬間の「ドリュリュリュリュ~」って音にまずシビれる。これから台風が来るみたいな、そこに大きな力の渦が発生している予感に満ち溢れちゃうわけ。
AKU なんかよくわからないたとえですが、気持ちは伝わります。
170 そんな風にして沸き上がる力を御するには心もとないほど細いシフトレバーをDレンジに入れると、ガツンと大きなショックが! それにめげずにアクセルペダルを踏み込むと、グワッと動き出す。トルクってもんを教えますよと言わんばかりに……。
AKU ちなみにM100エンジンのトルクは51キロもあります。
170 なんだろうなあ、巨大ロボットが動きだすみたいな感覚だね。まさに立ち上がるというかさ、こんなに大きいものが本当に動いちゃったら町のひとつやふたつは簡単に野っ原になるぜぇ! っていう……。
AKU ガンダム大地に立つ。
170 またガンダムなの?
AKU トナオさんがロボットって言ったんじゃないですか。
170 いや今回はガンダムじゃないんだ。そんなに洗練されていないの。鉄人28号とかジャイアントロボだな。
AKU それって単に世代の違いじゃ……。
170 オレはこういう感じ大好き! そんな関節じゃヒジ曲がんねぇ、ってツッコミも聞き入れてもらえないような強引さに、どうしようもなく引き込まれてゆくんだ。
AKU 僕にはよく理解できない方向ですが、しかしクルマにしろロボットにしろ、古いモノのことだと口が滑らかですねえ。