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業界の豪快伝説


その人は私がはじめて車関係のバイトをした外車屋の社長でした。

中古車雑誌のアルバイト急募の広告に電話してみると、若くて可愛らしい女性の応対で、こちらの都合のいいときいつでもいいので面接に来て欲しいとのこと。
早速その週の土曜日に行ってみると、どういうわけか女性は一人も見当たらず、いきなり社長が対応。
金無垢にダイヤを敷き詰めたロレックス、金ピカの指輪にネックレス、風貌はいかにもその筋の方って感じです。
話しぶりは自信に満ち、こんなに迫力のあるひとに会ったのは生まれて初めてでした。
その日何を話したのかほとんど記憶に残っていないのですが、「よし気に入った。明日から働きに来い」という言葉に、何だか意味も分からず「はい」と言ってしまったことだけははっきりと覚えています。

実際働き出してみると、実はその筋のひとなんかではなく、板金屋で住込みの丁稚奉公からはじめ、ブローカーとして国産外車問わず扱っているうちに、目利きの良さと誠実な人柄で顧客がどんどん増え自分の店を持つに至ったということが分かりました。

ここまでは、まあよくあるサクセスストーリーなのですが、この人は成功してからが豪快。
自分のことよりお客様が大事というのが基本にあったようですが、例えば、いい車を安く提供するにはいい車を安く仕入れなきゃダメなわけで、その方法が今ではちょっと考えられないものでした。
その昔、業者オークションは手差しといって会場での入札は魚市場のセリと同じように手を上げて値段提示していくものでした。
そこで彼は自分の狙った出品車の値段が自分の想定した値段より高い値段を付けようとしている入札競争者に対して「おらぁ、この車は俺が落札するぞぉ!!」と大声を上げて威嚇するわけです。そうすると大抵は、その迫力に押されて手を下げてしまうんですね。

そういう人柄もあってか一流のプロアスリートのお客さんが多く、例えばボクサーのお客さんのタイトルマッチ戦では売れ残ったリングサイド席を全部買い取って他のお客さんに配っちゃう。
サッカーチームやプロ野球チームでその人が活躍すれば、お客ではないチームメイトもみんな呼んでドンちゃん騒ぎ。
競輪選手には「肉食え!!」ということで毎週毎週焼肉店は貸切状態です。

それから、この社長、時々思いついたように宝くじを買うのですが、購入単位はいつも100万円!!と決まっています。
500万円くらい注ぎ込んだ時でしょうか、本当に1億円当たっちゃったんです。
それはもう毎日がお祭り騒ぎ、お客さん達に混ざって私もいっぱいご馳走になり、あんな楽しいバイトは後にも先にもありません。

そういえば、こんなこともありました。
ある日、社長がお客さんを乗せて運転中に現役暴走族の総長君がぶつかってきて、そのまま逃走。
ところがすぐに社長に捕まって、それこそ本当に首根っこを捕まれた状態で会社まで連行されてきました。
総長君、最初はいきがってましたが、迫力の違いは如何ともしがたく、途中からは土下座して許しを請うばかり。
そこに追い討ちを掛けるように「金がねぇなら、腎臓売って来い。買ってくれるところは紹介してやるぞ」
えっ、マジですか?と思った私のほうを向いてぺろっと舌を出す社長。
冗談にはとても見えないところが凄いかも。
総長君相当ビビッてましたが、結局は一生懸命働いて払ったようです。これで彼も更生できたんじゃないかな。

私はこの社長から、事故車の事故車に見せない直し方とか車の程度の見分け方など特に輸入車に関してのイロハを教えてもらいました。
ここでの経験がなかったら、私は今この仕事はしていないでしょうね

by OZW


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